2011年5月6日金曜日

原子力発電のコスト

  福島第一原発の事故は、その為に避難を余儀なくされている地域の人達の今後の保障や損害賠償が問題になって来ている。しかし、その事は今後地域の問題だけに関わらず日本の電力供給や国のエネルギー政策に関わる問題として、大きくクローズアップされるのでは無いでしょうか。
 避難地域30キロ県内の7万人に登る人達の生活の保障や地域の農業畜産事業、豊かな漁場を持っていた魚業従事者の損害賠償は、巨額に上るものと想定されます。
東電側は原子力損害賠償法に従って保障を検討したいと述べているが、原子力事業者には、過失、無過失を問わず無制限の賠償責任が嫁せられます。その賠償保険は通常の商業原子炉の場合、1.200億とのこ事ですから、今回の事故の補償を想定すると、到底、賄える数字ではありません。その為、当初、東京電力は政府に対して、原子力損害賠償法の規定による、異常に巨大な天変地異や社会的動乱の場合に適用される、免責事項に当たるのではという認識を言い出したり、賠償に上限を設けてもらいたいなどと言っているのです。要するに、一度、このような原発事故が発生した場合、電力事業者一社では、地域に与える損害を、到底、賠償しきれないという事なのでしょう。その為、東京電力の場合、首都圏の電力供給を独占している事から、電力供給を盾に会社組織の存続を政府に働きかけたり、同じく、東京電力の株主であり、資金の出してである金融機関は、東電の債務超過による破綻を回避する為、政府による損害賠償の肩代わりを強く主張するのです。政府は、株式の上場廃止や電力債の債務不履行で金融が混乱する懸念を言い立てられて、電力料金の値上げを容認したり、最終的には国での保障を口にしています。
 政府が原子力事故の被災者に、国が最後まで面倒を見ますと言っているのは、要するに、国民の税金で被害者への保障を行っていくという事なのです。その為に、広範囲の地震津波の被災地復興資金も含めて、増税で其の資金を賄おうと考えているのでは無いでしょうか。
 メディアの国民に対する世論調査でも、被災地の復興の為に増税は是か非かと問われれば、多くの優しい国民は、ほとんどの人が増税もやむなしと回答するでしょう。しかし、そこには、本当にそれで良いのかという疑問が沸いて来るのです。
 今の民主党政権は、本来、政治主導を唱えながらも、官僚主義的発想の政治家が多い。特に現在の政府執行部は、事あるごとに増税に頼って政策を賄おうとする傾向が有ります。
 福島第一原発事故を考える時、その保障や損害賠償を行う手立ては、十分な議論と国民の納得性が求められるはずです。一民間事業者の損害賠償を国が国民の税金で賄わなければ成らないとするならば、今後の電力事業で原子力発電を容認する事が出来るでしょうか。それは、国民にとってとてつもなく高いコストを払う事になり、到底、受け入れがたい政策ではないかと思うのです。一度、事故が発生した時のコストを想定する時、これからも、日本の電力供給は原発に頼った政策でいいのでしょうか。
 東京電力を含めて、日本には10の電力事業者があり、そのうち原発を持たないのは沖縄電力だけです。かねてより、通産省内部でも電力事業の発電と送電の事業分離が言われてきた経緯があるようですが、其のたびに、業界の強い抵抗と政府への働きかけで潰されてきたとの事です。日本の電力事業は官民の癒着体質から、現在まで一握りの事業者による夫々の地域独占が許されてきました。その為、電力事業の競争は大きく阻害されて来たのです。この官民の癒着体質こそが原子力発電事業の安全性のネックになって来たのかも知れません。政府の原子力安全委員会や通商産業省の原子力、安全保安院なども、電力事業者と天下りで、強い人的繋がりを持ち、原子力の御用学者も含めて原子力発電事業の安全規定が緩められてきたと想像されます。政府や監督官庁と事業者の癒着は商業主義からどうしても安全のコストが抑えられがちに成るのでは無いでしょうか。原子力発電事業の安全の基準に「想定外」という言葉を持ち出す事は当たるのでしょうか。
 東京電力の徹底的なリストラと、一旦、破綻の処理を通じた事業再生を目指すべきだと思います。国による被害者救済はその後からだと思うのです。そして、これからも、原子力発電事業を国として容認して行くとするならば、改めて、日本国民はそのコストの十分な認識が必要に成るのでは無いでしょうか。今、それを言うのは酷かもしれませんが、今まで原発の立地を容認してきた地域住民も、今までのように安穏と、事業者任せで最悪の事態の可能性を無視し続ける事は出来ません。天変地異以外にもオペレーションのヒューマンエラーが絶対無いとは言い切れないからです。チェルノブイリの事故も、もとは運転ミスと言われています。
 いずれにしても、原子力事故の損害賠償は巨額に登り、一事業者の負担能力をはるかに超えます。短期的な保障は別にして、保障の範囲を決定し、損害額を確定する迄には、相当長い法的な時間を要するのです。そんな中で、政府トップが苦し紛れに、「最後の最後まで国が面倒を見ます」といった発言をしている事が気になりますが、これを契機に、新たなエネルギー政策を検討して行かなければと考えるのです。政府の福島原発事故対応を含めて、今後のエネルギー政策を注目していきたいと思います。
 

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