クラシック音楽やオーディオの評論家でもあった、五味康祐のオーディオ巡礼を読んで、彼の芥川賞受賞作を読んでみようと思った。彼は、1980年に57歳で亡くなっており、主に剣豪を題材にした小説を書く傍ら、クラシックのレコード音楽をとても愛した。そのため、レコード音楽を自らの納得する音で聴きたいと、当時としては、中途半端でない取り組みをした人として知られている。
日本が、戦後の高度成長を向かえ、オーディオブームが始まった頃でもある。私はその頃、まだ30歳そこそこだったが、給料をはたいては、あれこれオーディオ機器を取り替えていた時期だった。そうした時期に、五味康祐は業界でも知られたオーディオ通だったのだ。
私の弟の家にあるJBLのパラゴンという家具のようなスピーカーの鳴らし方に付いて、ステレオサウンド誌で五味氏が寄稿していたことを思い出して、オーディオ巡礼を読んだことから、氏の芥川賞受賞作に興味を持った。
アマゾンをネットで検索してみると五味氏の芥川賞受賞作品、「喪神」は芥川賞全集の第五巻の最初に入っていることが分った。ただ全集の第五巻はアマゾンでも四千円もするので、最寄の図書館で借りる事にして、一番近い川西の中央図書館に足を運んだ。
ところが、川西には無くて、猪名川町立図書館から取り寄せて、ようやくその本にお目にかかった。「喪神」は短編の小説で読み始めると、なかなかすらすらとは読めない。活字がとても小さい事だけでは無く、硬い文章と読みずらい字に、つまりつまり読み終わったが、その読み終わりに、書き出しから終わりまでの筋書きが、一つになって浮かび上がって来るような感想を覚えた。この小説は、後に映画化されたとの事だが、剣豪小説というよりは、剣を極めた一人の人間の生き様を示しており、格調の高い文章と評されていて、それは私にも理解できた。
それと、この芥川賞全集第五巻には、松本清張の、或る「小倉日記」伝、という作品や石原慎太郎の「太陽の季節」、他、九氏の受賞作品が修められており、松本清張の或る「小倉日記」伝などは、短編ながら、さすがと感じる滑らかな文章で面白く読ませてもらった。
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