2012年2月1日水曜日

予想の付かないリスク

  2012年3月期の企業決算予想を目にする時期になって来ました。昨日も、驚きましたが、リコーの決算予想で、今まで初めて最終赤字に陥るとの予想を目にした事です。伝統的に営業力が強く財務基盤が確りしていると目されていた企業の代表格の赤字決算です。家電メーカーや精密機械メーカーの苦戦は予想されていましたが、パナソニック、ソニー、東芝、シャープ、富士フイルムなど、日本の蒼蒼たる電気精密の代表的企業が、軒並み減益や赤字決算を計上する予想となっています。
ギリシャに端を発した欧州のEU加盟国財務不安が、米国や日本の企業に大きな影響を与えていますが、その事が日本に取っては、為替の面で全ての通貨に対して大幅な円高となって跳ね返って来たのです。
更に、昨年3月に起きた東日本大震災の影響に加えて、昨年は、工場進出していた東南アジアのタイで、思いもよらぬ洪水被害が追い打ちを掛けた格好に成りました。
パナソニックやソニー、シャープの薄型テレビのパネルメーカーを見てみますと、昨年このブログでも取り上げましたが、2011年7月にアナログ波のテレビ放送がデジタル波に移行する事による、買い替えブームが起こりました。各社はそれに向けて、2007年ごろから国内に大規模なパネル工場の増設に入っていたのです。
パナソニックは兵庫県の尼崎や姫路に大規模なPDPや液晶のパネル工場を建設し、シャープは大阪堺に1兆円の21世紀型コンビナートとも言うべき工場群の中で、3800億に及ぶ液晶工場の建設を行っていたのです。そして、ソニーは韓国サムスンと合弁と言う形で、液晶パネルの増産に対応しました。

各社が、工場の増設に入った翌年、アメリカでサブプライムの破綻によるリーマンショックが起こり、住宅バブルが崩壊しました。幸い日本の金融機関は、たまたまサブプライムローンのビジネスに関わる余裕がなかった為に、その直接的な被害は免れたものの、それ以降欧州景気の減速と米国住宅不況が共鳴し合って、間接的に日本の輸出産業に大きな影響を与えました。特に、欧米の経済の不安定化が、消去法的に大幅な円高をもたらしたと考えられます。
  今年になって、ソニーはサムスンとの合弁を解消して、日立は日本でのテレビの生産から撤退を表明しました。パナソニックもシャープも大幅な減産を発表していますが、今や世界のテレビの生産の上位2社は、韓国のトップのサムスンと2位のLG電子になっています。

そこで、いつも思うのですが、何かのイベントや景気の好転の見通しをきっかけに、家電メーカーに限らず何時も、企業間の設備投資競争が起こります。そして、それから遠からず、景気循環から売れ行きはピークアウトし、在庫の積み上がりから安売りによる採算割で、大幅な減益や赤字決算が繰り返さっるのです。
たまたま最近ネットで読んだのですが、米国で戦前から現在までの自由主義経済思想を主導した、シカゴ学派のフランク・ナイト教授と言う人の言葉に、あくまで自分の直感にすぎないと断った上で、「企業家は平均的には利潤を得る代わりに、損失を被っている」と推測を述べて、その理由に「企業家とは、本来、自惚れの強い人間がなる職業だから」と言うのです。
また、ナイト教授は事業のリスクと不確実性と言う言葉を使って、「企業家は確率的に予想のできない危険(リスク)、すなわち不確実性の領域に踏み込む事によってのみ利潤を得られる」とも言っているのです。
その事が、資本主義国の市場経済では、こうした決算の浮き沈みを重ねることに成るのでしょうか。更に、不確実性と言えば、日本は不安定な政治と言う最大の不確実性を、常に孕んでいる国でも有ります。

昨年の日本の貿易収支は31年振りに赤字に成りました。しかしながら、海外債権の利息や受け取り配当金、企業利益の本国送金等で経常収支は依然として大幅な黒字を維持しています。そして、その事が、皮肉な事に日本の円高の理由付けの一つに成っているのです。輸出企業にとっては痛し痒しなのです。
  そして、今季決算は、欧州財務不安国の破綻リスクの表面化、それによる大幅な円高、そして、未曾有の被害を出した東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故、さらに工場進出している東南アジアのタイの大洪水での操業被災などは、いずれも予想の出来なかった不確実性によって、大きなマイナスの影響を被った事に成ります。しかし、薄型テレビの買い替え需要のピークアウトは、各社の経営を主導する経営者達は、共に予想する事が出来無かったのでしょうか。
2013年度の企業決算がどう成るかは分かりません。私が思いますのは、すでに通過して今見えているリスクは不確実なリスクでは有りませんので、予想の付か無い新たなリスクにも備えなければなりませんね!

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